2019年1月26日(土)水のまち:文化的景観としての都市構造
基調講演2 Barrie SHELTON(バリー・シェルトン)
Barrie Shelton
バリー・シェルトン(地理学士、都市計画修士)
1944年イギリスのノッティンガム州ビーストンで生まれる。ヘンリー・メリッシュ・グラマースクール、ノッティンガム・カレッジ・オブ・アートを経て、22歳でオーストラリアに移住。西オーストラリア大学で地理学を修め、アデレード大学で都市計画の修士号を取得。オーストラリアでは大学教員のかたわら、執筆(本、雑誌掲載論文、新聞のコラム)多数。また、都市デザイン・コンサルタントとしても活躍。オーストラリア建築士協会会員(1976−2012)、オーストラリア都市計画学会会員(1986—現在)。専門は、都市史、都市形態学、都市理論と都市デザイン。著作は数カ国語に翻訳され、世界中で読まれている。また、一部は「古典的名作」として、アンソロジーに収録されている。大学を辞して後、福岡県柳川市に移住。シドニー大学建築デザイン都市計画学部の名誉教授として、教育・研究・執筆活動を継続している。
主な職歴
タスマニア大学(1990-97)都市デザイン学部長
シドニー大学(2002-2009)大学院都市デザイン研究科主任
メルボルン大学(2010-2013)都市デザイン担当准教授
主な賞与
1986年 アデレード大学大学院での修士論文が「傑出した研究」として王立オーストラリア都市計画学会メダルを授与される。
1986年 サリバンズコーブ都市デザイン・アイデアコンペティション、最優秀賞
1993年 都市デザインコンサルタントとして、王立オーストラリア都市計画学会から都市計画優秀賞を授与される。
1996年 国際交流基金フェロー
2000年 バーミンガム・シティ大学客員教授
2007-2008年 名古屋大学客員教授
2011年-現在 シドニー大学(建築デザイン都市計画学部)名誉教授
主な著作
Learning from the Japanese City: Looking East in Urban Design (London & NY: Routledge 2012);
日本語版『日本の都市から学ぶこと』 (東京: 鹿島出版会 2014); 中国語版 Xiang Riben Chengshi Xuexi: Chengshi sheji xiangdong ka, (北京: PHEI 2016).
The Making of Hong Kong, London & NY: Routledge. (2011)
中国語版: 北京 (PHEI 2013) 、 香港 (Joint Publishing, 2015)
(写真上 メルボルン大学での都市デザイン作品展でスピーチをするシェルトン氏)
講演の題目 柳川の都市構造とその将来性
概要
「この場所の何が特別なのか?」それは、過去に訪れた三大陸の多くの都市で必ず自分自身に問い続けた質問であり、私の専門的な活動および執筆の際に最も中心となる疑問でもあります。その質問は常に、地形(自然)と居住形態を形成してきた思想(文化)、その両者の一致または不一致の省察へと私を導いてきました。そういった細かい観察によって、他の人たちが見逃してきた条件が明るみに出され、その場所の持つ可能性への新鮮な視点を提供することができてきたのです。そのような深い観察を書きとめたものが、専門的な賞を与えられたことも何度かありました。都市文化は、私の専門的教育の中核であり続けています。それ以前に、景観や自然への情熱は幼年時代に家族や近隣の住人たちから培ったものでした。
このような背景から見ると、私の新しい本拠地は魅力にあふれています。 おおまかな表現をすると柳川は城を失った旧城下町でありますが、現在でも例外的な都市構造を維持している水のまちで、その構造が持つ可能性には測り知れないものがあると考えています。 ほんの数十年前まで、柳川はまだ水路網と密接に関わる水のまちの生活と文化を持っていました。 その都市構造はほぼ無傷のまま残っていますが、(自然に関する知識と経験を含む)水のまちの生活と文化は衰退しています。 過去を再現しようとするのは間違っているかもしれませんが、過去を再考することは必要な過程です。まちの生活/文化と水路との以前の関係を調べ、そこから新たに学び、そして、 「21世紀にここに住む人々にとって最適な水のまちの生活と文化は何か」と問うことが必要です。住民にとって良いところであれば、より多くの移住者を引き付け、訪問者にとっても魅力がある可能性があります 。逆に、訪問者にとって良い場所は、必ずしも住み良い場所とは限りません。
こういった柳川の豊かな文化のひとつが、市内に散在する、堀から水を取り入れ、また堀に水を戻す「水のにわ」です。失われたにわもあります。荒廃したにわもありますが、まだ修復可能です。ところが、(直接の関係はないかもしれませんが)水のにわの消滅と平行して、若い世代間に自然に関する知識と経験が急速に失われつつあるという現実があります。アメリカの作家リチャード・ルーブは、ベストセラーとなった『森の最後の子供』(日本語版『あなたの子どもに自然が足りない』)という本の中で、こういった状況を「自然欠乏症候群」と呼び、危機的な状況であると警鐘を鳴らしています。
この講演では、こういった文脈の上で、他の都市での私の仕事を踏まえて、「水のまち」柳川を探究してみたいと思います。
(写真上 名古屋大学でのシェルトン先生と堀田先生)
<水研とシェルトン先生との関わり>
2017年の水研発足以来、シェルトン先生にはアドバイザーとして特に都市関係の講演やセミナー、ワークショップをお願いしています。過去二年連続で行われたシドニー大学大学院柳川演習では、シェルトン先生のベストセラー『日本の都市から学ぶこと』(鹿島出版会 2014年)が、柳川のまちの研究と分析に不可欠な理論のバックボーンとなっています。
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